超時空要塞キクロス

友の会の会員を辞めました

三郎君の花束

花屋で修行を始めて1年経った時、三郎君は店長から初めて花束作りの仕事を与えられました。
「もし今度お客様がお越しになって、『花束を頼みたいけど何をどう選んだらいいのかわからないからおまかせします』と仰ったら、三郎。君が好きなとおりに組み合わせていいぞ。」と言われました。
三郎君は嬉しくて仕方ありませんでした。今までは店長に「俺のやっていることを見てろ」ばかり言われていたからです。やることといえば、配達だったり、市場に行って言われたまま仕入れをしたり、水を替えたり、茎を切ったり、おつりを渡したり、掃除をしたり…といったことだけだったのです。

中年の男性のお客様が来ました。
三郎君は(お葬式や命日でなくお祝いだな)と感じて、教えられた通りに、微笑んでお迎えしました。
「いらっしゃいませ、どんな御用向きでしょうか。」
「娘の誕生日なんだ。花束を贈ろうと思うんだがさっぱり分からない。三千円くらいで適当に見つくろってもらえるかな。」
「わかりました。お嬢様はどんな色がお好きですか。」
こうして、三郎君は娘さんの好みだという黄色のバラを中心に、白や紫やピンク色の花の混ざった花束を作りました。小さな、でもきれいな花束です。店長も内心(おっ、いいセンスしてるな)と驚いていました。
代金をお預かりして花束をお渡ししました。「いいね、きれいだ。ありがとう。」と、その男性もまんざらでない様子です。
三郎君と店長は「ありがとうございました。」と頭を下げます。
帰りかけたお客様に三郎君が声を掛けます。「あ、忘れていました。花瓶にきちんとさしておいてもらえれば一週間は楽しめます。」
「そうかい。」という返事です。
また、帰りかけたお客様に「それ、僕が初めて作った花束なんです」とまで言ってしまいました。

店長は「余計なことまで言いやがって。」「三千円にしては盛り過ぎなんだよ。」と言いたい気持ちを抑えました。なにせ三郎君の初めての仕事、それも一生懸命だったのですから・・・・。小言は明日にしようと思いました。

 

※三郎君の即興童話シリーズで一番最初に書いたものです。

読書の好きな小学五年生に設定したのは、この後のことです。

 

※本日のNHK短歌は良いのがなかったのでパスします。