三郎君は第二次世界大戦のユダヤ人の迫害される姿をえがいた本を読んで、かなり気分がまいっていました。
先生がなにげに「みんなは何をしているときが一番楽しいかな?」ときいてきた時に、「本を読んでいる時です。」と答えたのです。他のクラスメイトは「みんなと一緒に遊んでいる時」「対戦ゲームをしている時」「家族とどこかへ出かける時」などと答えました。三郎君は休憩時間や自習時間に熱心に本を読んでいることはみんな知っています。だからといってみんなに敬遠されているというわけではないし、「三郎君らしい答え方だな」と周りは受け止めています。
「あれっ、誰かと一緒でない、一人の時が楽しいのは僕ひとりだけだな」ということに気が付きました。もちろん光輝君のような友達はいます。でもコウちゃんには島本紀美子さんが好きなことだとか、全部を話しているわけではありません。コウちゃんは勉強嫌いで、ボキャも豊富ではありません。話が時々食い違います。ちょっと孤独を感じていたのです。
それに輪をかけて、例のアウシュビッツの本を読んでしまったので、孤独感が増しています。
「自分は一人なんだ。本に出て来る女の人みたいに、死ぬ時に『僕の友達は、あの桜の木なんです』とか、お医者さんに話しているんだろうか。」
そういうわけで、三郎君は最近うつうつとしています。
※ここで三郎君が読んだ本というの
はフランクルの『夜と霧』です。夜と霧 新版 | ヴィクトール・E・フランクル, 池田 香代子 |本 | 通販 | Amazon
本に毎日
ただいまと言う
おかえりは
まだ聞こえない
NHK短歌より。まさに本の虫です。