超時空要塞キクロス

キクロスとは菊池市生涯学習センターのことです。友の会の会員が除名覚悟で書いております。

即興童話シリーズ~三郎君の剣道

三郎君は剣道クラブを辞めることにしました。

自分から入ったのではなく、四年生になったのをきっかけにお父さんから「剣道をやってみろ」と言われたのです。気か進まなくて「イヤだな」と言いました。「剣道は俺も中学・高校とやっていた。とてもいいもんだぞ。」と言われ、それなら「1年間だけ」、という条件付きで入りました。

初めは本当にイヤだったのですが、やっていくうちに、小学校の違う子と仲良くなったり、負けてばかりだったのが、コテで一本をとれるようになったり、うまくなったと自分でも思っています。指導してくれる先生がいい人で「うまくなったな」とか「もう少しこうするといいかも」と、いいタイミングで、いいアドバイスをもらえます。

でも、三郎君は最近、勉強が楽しくなってきたし、なにより本を読むことが好きになりました。とりわけ、戸川幸夫椋鳩十の書いた話が楽しいのです。

剣道のことをよく考えました。嫌いではないですが、かといって好きではありません。先生のおかげで続けられただけで、強いことを自慢している六年生や、イタズラをする子もいます。本を読む楽しさに比べたら、剣道がそんなにいいとは思えません。

約束の1年ではなく、1年と5か月がたっていました。お父さんにそのことを伝えると「そうか」と言って認めてくれました。「1年半もよく続けたな」とも言ってくれました。

剣道クラブの先生と仲間にお別れを言う時が来ました。

「先生、みなさん、お世話になりました。ありがとうございました。」ここまでは考えていました。「とても楽しかったです。中学生になったら、また剣道部に入るかもしれません、その時はお手柔らかにお願いします。」こんなことまで言ってしまいました。お手柔らかになんてことを口にするなんて。第一、中学校の剣道部に入ろうなんてこれっぽっちも思っていません。三郎君は自分でもびっくりしました。本を読んでいるから、そんなことばがでてしまったのでしょうか。ウソが上手になったのでしょうか。「ぼくも少しおとなになったのかな。」そんなことばが頭をよぎりました。

三郎君はもうすぐ中学生です。今日も本を読んでいます。

 

 

※しばらく前に書きました。

とある啓発セミナーのオンライン版で、つい先日、小生と同世代の人で「好きでもない剣道を親から行かされていた」という話を聞きました。この話を書いた直後で、全くの偶然でした。小さい頃から、あまり丈夫でなく(親としては何とか健康になって欲しいという思いがあったらしい)、無理に行かされていたというのです。あまり誉められた思い出がなく、自己肯定感がなかなか持てなかったとのことです。五年生くらいの時に、地域の祭りで活躍し(笛か太鼓だったか楽器の演奏が上手になった)、やっと少し自信が持てたということでした。

オンラインでなく、会合でこの方と直接お話ししました。「自分の子供には同じ思いはさせたくなかった。でも自分の父親同じようなことを我が子に強いたかも」と言われていました。