超時空要塞キクロス

キクロスとは菊池市生涯学習センターのことです。友の会の会員が除名覚悟で書いております。

たとえ起承転結が分かっていても…

罪と罰』のような難解な長編を読むにはコツがあります。登場人物とその関係が分からなくなることが最大のつまづきとなることが多いのです。ですから最初の30ページくらいを、記憶に自信のない方は2回くり返し読んで把握しておくことをお薦めします。(亀山郁夫氏の文を少し端折って書きました)

古典、ここでは枕草子であるとか源氏物語ばかりを指さない。100年かそれくらい読み継がれている本は何らかの魅力がある。

もう、時間がない、1から10までは無理だ…という場合、物語の概要や人物関係を示したものをネットで探し、一太郎でもワードでもいいが、コピペして本に挟んでおくことをお薦め、というか小生がやっている。話が最後まで分かっているからと言ってつまらないということはない。(以前も書いたかも知れない)イギリス人がシェークスピアの舞台劇を観る。イギリス人だから学校で習ってストーリーは頭の中に入っている。しかし、それでも観るのは演出や俳優の演技を楽しみたいからであるし、知っている話でもやはり面白いからに他ならない。

去年の今頃、佐藤優の『これならわかる「カラマーゾフの兄弟」』を携えて、亀山氏訳の『カラマーゾフの兄弟』を読んだ(亀山氏の解説本も同時並行した)。むやみに読んでもさっぱり理解できなかっただろう。

駿台の英語

A sensitive and skillful handling of the language in everyday life,in writing letters,in conversing,making political speeches,drafting public noticies,is the basis of an interest in literature.Literature is the result of the same skill and sensitivity dealing with a profounder insight into the life of man.
「毎日の生活において、言葉を注意深く遣うこと、例えば手紙を書くとき、会話、あるいは政治的な演説を行うときに、公式の通知を書き起こす時にでも然りだが、そういったことは文学への関心の基本になる。文学は同様の熟達と感度が人間の生活の奥深い考察からもたらされる結果である。」
伊藤和夫「英文解釈教室・新装版」の一番最初の演習文。なんという工夫だろうかと今さらながら驚く。やっていれば国語力まで伸びるだろう。
坪内祐三駿台で伊藤先生の授業を受けたという。「とても論理的で、その構文主義は数学や物理に通じる美しさがあった。単なる受験のための英語ではなかった。」と書いている。(ここまでは数ヶ月前に書いたもの)

時間がなくてもやりくりして本を読もう。長編を少しずつ読む。ダメなら短編を読む。あるいは詩や短歌、俳句といった韻文でもいいのである。

 

>鯛のようなグルメにありつけない

>桜のような美しいものに触れることのできない

>月は誰だって拝める

>月を楽しむ

前々項で以上のような言葉を遣った。

“美しい物を”①愛でる、②愛する、③眺める、④味わう、⑤吟味する、⑥鑑賞する…受ける動詞は様々。読書は語彙を豊かにしてくれる。読む(インプット)と同時にツイッターやブログで書いてみる(アウトプット)ことが肝要であり、今の世の中では可能である。

大晦日定めなき世の定めかな

続けます。西鶴です。

世に定めなし とは無情だと言うこと。蓄財して家を建てても火に巻かれて一瞬で消えることもあるような。あるいは藩が取り潰されて浪人になってしまうようなことを指しているのかも知れない。

その一方で定めがあるということ。身分が固定している時代だから、出世など望めない。まあ、これは西鶴だから借金のことを指しているのであろう。夏は盆、冬は大晦日が、金貸しにとっては徴収や請求の日になる。

本来めでたく迎える新年だが、新年らしく新しい着物やごちそうで祝いたい。が、金がなく普段と変わりなく過ごすしかない庶民がいた。これを「年を越せない」と、かつては言ったものだが、もう死語だろう。

それはともかくこういう悲哀を俳句で表現出来た西鶴は達人である。

鯛は花は見ぬ里もあり今日の月

繰り返す。

鯛は花は見ぬ里もあり今日の月 井原西鶴

 

抽象的だが、名句である。ここでは、里を集落でなく「人」と解釈する。

 

鯛のようなグルメにありつけない人も、桜のような美しいものに触れることのできない人もいる。が、今晩のようなみごとな月は、誰だって拝めるじゃないか。「24時間は誰にだって平等に与えられている」という理屈と同じ。

月を見ることを幸せとポジティブに考えるか。貧乏人には月を楽しむくらいしかないとネガティブに捉えるか。

色々考えさせられる。

光る君へ(15)

番組をご覧になっておられる方で手元にガイドブック等を持たれておいででない、という向きには敢えて字幕付きで見ることをお薦めしたい。※4/15の時点で書きました。
(実資)心配じゃ
(道長)まことに
のように、誰が言ったかが明らかになるのが良い。

石山寺で『蜻蛉日記』の作者(一般的には「藤原道綱の母」で通る)と紫式部が出会う。中宮定子と清少納言の接見。場面としては面白いので文学爆発とした。

東海道五十三次が、52草津宿(ここは上州・草津の湯♪で知られる群馬の草津とは違う)、53大津宿、で結びが山城の三条大橋となる。石山寺草津と大津のほぼ中間点に当たる。京都から一泊で往復旅行というのは、まあ定番の旅だったと思われる。
https://www.ishiyamadera.or.jp/guide/event/shikibuten/shikibuten-2024-spring

中宮定子が高畑充希というのは非常に良いと思った。

光る君へ(34)


「面白さがわからない」と言いながら中宮がわざわざ、物語創作の意図を式部の元に聞きに来る。一条天皇も、これまたわざわざ聞きに来る。

公卿たちの間でも、女房たちの間でも式部の書いた物語が話題になり、「これは誰それに似ている」などと噂をし合う。

本というのがほとんど読まれなくなった今日、…例え話を挿入する。電車で文庫本を読む乗客はごく僅かであるし、田舎のTSUTAYAで扱っている本など限られているので、わざわざ熊本市内の紀伊國屋に買いに行かなければならない。…というのが現状である。

読んだ本の内容で盛り上がれるというのはうらやましい限りである。

見上愛演じる中宮親王、つまりもう一人の中宮の産んだ子を可愛がる場面が先々週くらいからあるが、どうも、この役者には母性が欠ける。真剣に見てはいないが、朝ドラの「なつぞら」で、若い渡辺麻友が母性を醸し出していたのとは対照的で、この役者さんにはあまり期待できないと思った。

この後、一条天皇中宮彰子が仲の良い夫婦へと変わり、道長の暗殺計画があって、左大臣が危機にさらされる、といったことで時間が潰されるのは目に見えている。

 

以前、芸術新潮の3月号をご紹介したが、最近手にした源氏物語のダイジェスト本として、阿刀田高源氏物語を知っていますが』をお薦めしたい。

 

(以下、発売間もない頃に書いたもの)

文藝春秋連載の俵万智『愛する源氏物語』はリアルタイムで進行する俵の生活(経験や読書も含める)と、紫式部世界を対照させることで解説を試みた。これも面白かったが、うーん、阿刀田さんには勝てないだろう。
例えば、多くの男どもから求愛されている玉鬘(たまかずら)は、突如、真木柱の章ではどこに魅力があるのか分からない髯黒大将の夫人の座に収まっている。モテる女は幸せにならないという、この物語の原則に反する存在だが、この婚姻は意表を突く。阿刀田は編集者なら「書き足して欲しいと頼む」、作家としては「大胆な省略は好ましい技法ではない」、もちろん読者としては「経過が知りたい」、三つの方向から論じている。こんな具合に読者に寄り添うことを忘れない。
源氏は女たちにはこまめで、たまたま関係を持っただけの相手でも経済的に援助するなどの行為を怠らない。しかし、阿刀田は男の友達が極端に少ないことを指摘している。要は「おい、彼女には今は手を出すなよ」と端から止める者がいないため、源氏自身も相手も終生煩悶を抱えることになる。さらに、友人に代わって紫の上がその代わりを一部担っていた、と。大変的確だ。源氏の息子(まともな結婚でまともに生まれた唯一の存在)の夕霧を「真面目で女性の感情変化に疎いが、行動力はある」、表向きは源氏の息子だが柏木と女三の宮の密通で生まれた薫を「褒められるために生まれてきた様な、見た目も性格もいい男なのだが、常に迷っているハムレット型」などと、キャラクターの性格付けがうまい。比喩が現代的で堅苦しくなく、また軽薄でもない。
源氏物語のガイダンス兼ダイジェスト。さすがは阿刀田。お見事。

 

菊池市図書館友の会の方がご覧になってるのであれば、小生は訴えたい。

「LINEは公式的な連絡やインフォメーションを目的に使う」のではありませんでしたか?決めた人がルールを破っていませんか。

 

 

NHK短歌2024/09/08

リアルタイムで見たらちょっと興奮したが、「プラス」で追いかけると少し冷静になれる。今日は素直に選者に従うことにする。

 

第三席 天板にナイフで彫った風の字はあの教室を出られたろうか

小生も中学校を卒業するときにやってしまった。ここなら誰にも気付かれないだろうと、黒板の粉受けに下からマジックで何か書いた。何を書いたのか忘れたが、バカなことをしたものだ。

 

第二席 <弱い>って書く手を弓のとこで止め<強くなれる>に変えて記す日

とある動画で「メンタルが弱い人間なんて存在しない」「それは思考の仕方の問題だ」そして「“人生には必要なことしか起こらない”と捉えれば、簡単なことでは落ち込まない人間になれる」と講師が言っていたのを思い出した。

 

第一席 

彼という

文字を散らして

波にするように

海へと

撒かれる遺骨

いわゆる散骨の場面。「彼」と「波」の画数が同じことに着目した。

 

「光る君へ」とのコラボで、選者は俵万智。ゲストは書家の根元知。根本さんは、道長が、紙に書かれた筆跡から、式部の書いたものだと気が付くシーンが嬉しかったそうである。大河ドラマよりも短歌の方が番組としては面白い。