「面白さがわからない」と言いながら中宮がわざわざ、物語創作の意図を式部の元に聞きに来る。一条天皇も、これまたわざわざ聞きに来る。
公卿たちの間でも、女房たちの間でも式部の書いた物語が話題になり、「これは誰それに似ている」などと噂をし合う。
本というのがほとんど読まれなくなった今日、…例え話を挿入する。電車で文庫本を読む乗客はごく僅かであるし、田舎のTSUTAYAで扱っている本など限られているので、わざわざ熊本市内の紀伊國屋に買いに行かなければならない。…というのが現状である。
読んだ本の内容で盛り上がれるというのはうらやましい限りである。
見上愛演じる中宮が親王、つまりもう一人の中宮の産んだ子を可愛がる場面が先々週くらいからあるが、どうも、この役者には母性が欠ける。真剣に見てはいないが、朝ドラの「なつぞら」で、若い渡辺麻友が母性を醸し出していたのとは対照的で、この役者さんにはあまり期待できないと思った。
この後、一条天皇と中宮彰子が仲の良い夫婦へと変わり、道長の暗殺計画があって、左大臣が危機にさらされる、といったことで時間が潰されるのは目に見えている。
以前、芸術新潮の3月号をご紹介したが、最近手にした源氏物語のダイジェスト本として、阿刀田高『源氏物語を知っていますが』をお薦めしたい。
(以下、発売間もない頃に書いたもの)
文藝春秋連載の俵万智『愛する源氏物語』はリアルタイムで進行する俵の生活(経験や読書も含める)と、紫式部世界を対照させることで解説を試みた。これも面白かったが、うーん、阿刀田さんには勝てないだろう。
例えば、多くの男どもから求愛されている玉鬘(たまかずら)は、突如、真木柱の章ではどこに魅力があるのか分からない髯黒大将の夫人の座に収まっている。モテる女は幸せにならないという、この物語の原則に反する存在だが、この婚姻は意表を突く。阿刀田は編集者なら「書き足して欲しいと頼む」、作家としては「大胆な省略は好ましい技法ではない」、もちろん読者としては「経過が知りたい」、三つの方向から論じている。こんな具合に読者に寄り添うことを忘れない。
源氏は女たちにはこまめで、たまたま関係を持っただけの相手でも経済的に援助するなどの行為を怠らない。しかし、阿刀田は男の友達が極端に少ないことを指摘している。要は「おい、彼女には今は手を出すなよ」と端から止める者がいないため、源氏自身も相手も終生煩悶を抱えることになる。さらに、友人に代わって紫の上がその代わりを一部担っていた、と。大変的確だ。源氏の息子(まともな結婚でまともに生まれた唯一の存在)の夕霧を「真面目で女性の感情変化に疎いが、行動力はある」、表向きは源氏の息子だが柏木と女三の宮の密通で生まれた薫を「褒められるために生まれてきた様な、見た目も性格もいい男なのだが、常に迷っているハムレット型」などと、キャラクターの性格付けがうまい。比喩が現代的で堅苦しくなく、また軽薄でもない。
源氏物語のガイダンス兼ダイジェスト。さすがは阿刀田。お見事。
※菊池市図書館友の会の方がご覧になってるのであれば、小生は訴えたい。
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