超時空要塞キクロス

キクロスとは菊池市生涯学習センターのことです。友の会の会員が除名覚悟で書いております。

三郎君とUおじさん

三郎君は本を詠むことが大好きな小学校五年生です。
悩みは同じ趣味を持つ同級生がいないことです。例えば、フランクルの『夜と霧』を読んで感動して、それを誰かに伝えたいと思っても、読んでいる人が周りにいないので、なんとなく孤独を感じているのです。

 

ある日、三郎君が図書館で本を読んでいると、優しげなおじさんが話しかけてきました。
「君はよく、この東側の席で見かけるけど本が好きなのかい?」から始まって
夏目漱石の『坊ちゃん』は読んだ?」ときました。
三郎君も好きな本なので、「はい。何回か読みました。」と答えると
「坊ちゃんと山嵐は正義感を持って大暴れしたんだよね。でも、実は正義感ってのが厄介なもので、何が正義かっていうのは人によって違うんだ。」…少し長い話を聞かされましたが三郎君にとっては、とても有意義な時間でした。
本はストーリーが面白ければそれでいいと思っていました。漱石のこの本でも、坊ちゃんと山嵐が無鉄砲さを発揮して、ゲラゲラ笑い、最後は清の遺言でほろりとして…というだけでした。
 
本を読んで、今までは「はい、おしまい」という感じでしたが、このおじさん、田迎さんの話を聞いてから後は、巻末の解説をしっかり読むようになり、物語が持つ意味であるとか、書かれた時代背景も大事なのだと考えるようになりました。
三郎君は自分でかなり成長した気がしました。(実際に飛躍と言っていいでしょう)
 
田迎さんと時々話をするようになってから『安寿と厨子王』でなく、森鷗外の『山椒大夫』を読んだし、太宰治の『御伽草子』で、童話の類をまた違った捉え方をしているのを読んで、視野が広がりました。いわゆる少年少女向けの本を卒業したのです。
 
でも・・・・。
 
田迎さんの話す内容に飽きてしまいました。パターンが何か決まっている気がし始めました。例の坊ちゃんの話も、集英社文庫の巻末にある、ねじめ正一さんの書いたもの、そのままだということにも気が付きました。田迎さんの言うことはネットで調べれば、見つかるようなものばかりです。浅いなあ、と正直思いました。(三郎君の知識欲はもう田迎さんの引き出しには収まりきれなくなったのです)
 
そして田迎さんとの会話をを見ていたらしい、時々顔を合わせることがある中学生から
「おい、Uおじさんと話をしていたね。」と声を掛けられました。
「え、ユーですか?」
「アルファベットのU。うるさいってことなんだ。」
この頭の良さそうな中学生が、やはり同じような体験をしたそうです。
「あんまり相手にならない方がいいよ」というアドバイス(?)を残して、三郎君の座った席から去って行きました。
 
ある日、田迎さんから「読書会AtoZ」というリーフレットを渡されました。「今の君には早いかもしれないけど、私はこのサークルを立ち上げて五年目なんだ。」とのこと。
正直、あんまり面白くありません。そして田迎さんが書いた文を読むと、市議会議員の皆さんにお願いしたいことは、庶民の立場に立って欲しいのです
とあって、三郎君は「おかしいなあ、これなら、お願いしたいことは、庶民の立場に立って欲しいということです…みたいな書き方になるんじゃないのか?」と思いました。他にも漢字の間違いをいくつか見つけました。
 
田迎さん、いや、三郎君もUおじさんと頭の中で呼び始めています。Uおじさんが図書館からいなくなってから、司書さんに「これ、言葉づかいがおかしくないですか?」と訊くと「ああ、これ田迎さんのね」。
詳しい話を聞くことができました(もちろん小声です)。Uおじさんは図書館長や本好きの人と同好会を立ち上げたものの、中心となっているUおじさんのわがままが目立ち、今は実質的にUさんひとりでやっているようなものだということでした。最初は同人誌だったのが、書く人もUさんひとりで、ついにリーフレットになってしまったということです。
要は詩吟会とか歌会や、色んなところに顔を出しては、やっぱりうるさがられているらしいのです。
 
何となく三郎君も分かってきました。自分みたいな本好きに話しかけては、やがてうるさがられるんだ。Uさん自身は大して本も読んでいないんだな。だって、漱石と太宰と鷗外と井伏鱒二に限られているもんな…と。
 
三郎君はUさんと会わないように時間をズラして行ったり、姿を見ると隠れたり、までは行かなくても距離を持つようになりました。
 
ある日、田迎良雄さんから手紙が来ていました。大規模な太陽光発電の計画が市で進んでいるが、環境保全の立場から反対の署名活動をしている、協力して欲しいとのことでした。三郎君はまだ五年生ですから、三郎君にも分かるように、かみ砕いた内容の手紙も添えられていました。
が、なんだか怖くなってお母さんに手紙を見せ、それまでの経緯を話しました。
「住所まで教えちゃったの?」
「読書案内でいいのができたら送るってことだったから。」
「住所は教えちゃダメでしょ・・・ってもあんた五年生だからねぇ。仕方ないのかな。それにしても小学生の家にこんなの送ってくるなんて非常識にもほどがあるわよ。」想像した以上に怒っていました。
結局両親が話し合った結果、田迎さんに、もう息子とは関わって欲しくないという内容の手紙を送ったそうです。もちろん三郎君自身がUおじさんと関わりを持ちたくないという気持ちを確認してのことです。
 
それから…。
三郎君は図書館に滅多に行かなくなりました。小遣いの範囲で古本屋から本を買っています。Uおじさんのことも、三ヶ月も経つとほとんど考えなくなりました。
ある日、おじいちゃんの家の新聞で(結末はここでは書きません。)
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ちょっと公私混同じゃないかと思う件があって、佐藤優『先生と私』をヒントにして書きました。ブログ冒頭に示しているとおり、除名は覚悟しての抗議です。