養老孟司の『バカの壁』を再読している。amebaでブログを書いていた時に、平成を象徴する3冊として、五木寛之『こころ・と・からだ』、佐藤優『交渉術』と並んで小生が揚げた経緯がある。
非常に比喩がうまい。
y=αx、中1で学習する1次関数(もっとも中1の段階では、関数、比例という概念で終わる)を用いて、宗教が異なってまるっきり理解し合えない民族どうしの場合は、係数であるα=0となる。オウム真理教に加わった信者の場合はこの係数が無限大になってしまったのだと言う。ただ、信者が騙されてしまった理由を考えると、麻原がそれなりに騙すうまさがあったと養老は書いている。
騙す騙されるというのは世の常で、この間クローズアップ現代で、ネット通販のやらせレビューを取り上げていた。https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4335/
例によって、なのだが小生はあまりTVを見ないし、この番組も一部しか見ていないが、フェイクの商品評価に中国人のメーカー関係者が「全部やらせ」と言っていた。現地語で“全都是做假”と言っていただろうか。假=嘘である。それから「日本人の特性として、行列のできる店を信用したがる」という言葉が印象に残った。例えばネットで神対応と書かれている。某芸能人が自宅を新築だか改装だかするので、近所に挨拶をして回ったという。それは「懇切な対応」とでもいうべきであって、神なんかじゃないのだ。
書籍もこれに似たところがあり、ベストセラーだからと手にとってみる。面白ければいうことなしだが、それが自分にとってつまらない場合がある。これは結構大事なことかも知れない。じゃあ、プロの作家である川上弘美が推していたから、俵万智が好きだと書いていたから・・・・・・、やっぱり自分に有益であるとは限らない。谷崎潤一郎は大作家だが、書いたものすべてが素晴らしいわけではない。
誰かを何かを信じ込むのではなく、是々非々でいくしかないのではないか。
オウムの話に戻るが、信者達は概ね純情で、係数のαを大きくしがちだったのだろう。人生経験が少ないのはしかたないが、読書を通して「先生がいい本だと宣伝していたけど、納得できない」「友達がつまらないと言った小説が案外面白かったな」という自分なりの価値観を模索していたら、悲劇は避けられたのではないだろうか。
下記は元プロ野球選手へのインタビューで構成されたものだが、傾聴に値するものがある。人生論でもある。
https://www.hb-nippon.com/interview/1935-intvw2019/7646-20190607no983?page=2